再会
あ・・・・あの方!あの方のお名前 ○村さんじゃないかしら?!
今年80歳を迎える彼女が、驚きを隠せず あたしの耳元でこう囁いた。彼女の記憶は、正しかった。彼の名は ○村さん。
彼女の顔は、少女のようにぱっと華やいだ。
彼にそっと彼女の事を伝えると 「最初に見かけたときから わかっていたよ。」と誰にともつかない小声で そう呟いた。それから 目を細めて 少し離れたテーブルに座る彼女の姿を懐かしそうに見やっていた。あれから2週間、まだ二人は直接 お話しをしていない。
照れて はにかんだ彼と 目が合うとうつむいてしまう彼女を見ていると 時空を超えたその頃の二人の姿が目に浮かぶ。
その頃彼は、32歳、川○の高校の教師だった。そこに彼女が事務員としてお勤めしたのが二人の出会いだった。密やかに始まり密やかに締め括った二年間は、40年もの長い間 彼女の心の引き出しの奥にしまわれていた。そこから 思い出を少しずつ取り出しては顔を赤らめる彼女に
ね、彼は、素敵だった?と今日聞いてみた。
○村先生の周りにはいつも生徒たちがいて 将棋をしたり歌を歌ったり・・・。そりゃ素敵だったのよ。
自由恋愛など決して許されない、既婚女性が恋心を言葉になどすることのない時代、彼女にとって 忘れることの出来ない掛け替えのない時間だったのだろう。
来週は 何気に席を近づけてあげよっと。長生きは、するもんだね♪